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15. ミコノス島(下) エ ー ゲ 海 の 白 い 宝 石
ミコノス島は、アポロンの子孫のギリシャ神話の英雄ミコノスに由来している。 海岸には色鮮やかなボートやヨットがたくさん係留され、鴨やアヒルがのんびりと岸辺で遊んでいる。午後７時だというのに、まだ日が高く、夕方という感じがしない。 船から眺めたミコノス島は、荒涼とした印象だったが、さまざまなお店やレストランの連なったミコノスタウンの通りは、人で賑わい、人間臭いエネルギーが溢れている。カスバさながらの迷路は、海賊の襲撃に備えて、わざわざ作られたそうだ。現在の街並みは、１４世紀に作られたという。ここでも、白い家並み、白い風車、白い教会が多い。この島の住民には、「毎年、住まいを真っ白な漆喰塗りにすること」という義務が負わされていると、ガイドは説明する。観光パンフレットに、ミコノス島は「エーゲ海の白い宝石」と紹介されているのも、それなりの努力があってのことと納得する。 他のエーゲ海の多くの島が、都市国家の名残の古代遺跡を抱えて、発掘の成果を観光資源にしているのに対し、ミコノス島にはそれがない。都市国家の跡がないから、神殿や古代競技場、円形劇場などの遺跡がない。古代ギリシャとは、いわば無縁の島であり、その代わり、現世的な楽しみを旅行者に提供しているといえる。
狭い通りの両側には、商店が並んでいる。金銀細工の宝飾店、サマーセーターやＴシャツなどの衣類の並ぶ土産屋、絵はがきや絵を描いた陶板満載の店もある。おしゃれなカフェテリア・バー・タベルナが軒を連ね、観光客が溢れている。驚いたことに、そんな通りを車やタクシーが、道幅すれすれに通っていく。みんな壁に張り付いて通してあげる。車が通れない小道には、荷物運搬のロバが、下を向いて黙々と歩いている。 エーゲ海は、紀元前３１年にローマの支配下に入り、やがてキリスト教が伝えられ、人間臭いエーゲ海の神々の世界から、一神教の世界へと大きく変わった。個人の寄進や、家族の霊を祀るために建てた小さな教会を含めると、ミコノス島に350余りもの教会があると聞いて、感心する。この島の人口は、約5,500人だから、教会が多いのは、信心深い島民が多いのだろう。 カトミリの丘の５つの風車まで、海沿いの道を散策。茶色の茅葺きのような円錐形の屋根と、円筒状の白い小屋に、風車が取り付けてある。かつては小麦を挽くために使われていたのだが、今は、観光用の、島のシンボルだ。帆の張ってない形だけの風車は、味気ない。風車のそばには、パラボルテｲヤ教会が建っている。 風車のある丘のすぐ下に、ヴェネテｲアン・ポートが広がっている。この辺りに、ヴェニスの商人がやって来た名残だ。彼らも、遠く故郷をしのぶには、打ってつけの場所と感じたことだろう。海水に洗われる岸辺を眺めながら、２年前に訪れたヴェニスの海岸の風景が重なって、思い出された。 遙か水平線まで望める海岸の絶好の場所に、「アルファンドラ・キッチン」というレストランがあり、そこで、夕食となった。屋外にテープルが並んでいる。その海沿いの長いテーブルを日本人グループで占領した。 団体が入ったので（私たちもその仲間だった）しばらく待たされたが、その間ウエイターが歌を歌いながらサービスをしたり、ミコノス名物のペリカンのペドロが現れて、大きな羽を広げてテーブルの間を歩き、客に愛嬌を振りまいたり、子猫が２匹テーブルの下で、ミャーミャーと鳴いておねだりしたりと、退屈しない。 隣りに座った団体が、楽団を借り切って、気勢を上げている。アコーデｲオンやバイオリン、カスタネットの賑やかなリズムに乗って、ダンスが始まり、陽気な歌声が響く。ロバの背に花束を乗せたおじさんが現れ、花売りを始める。写真を撮らせては、チップをもらったりもしている。わたしも撮ってもらう。 雰囲気が盛り上がった頃に、ロブスター・ジャンボエビ・イカ・白身魚の炭火焼きが現れた。レモン汁をたっぷりふりかけ、野趣豊かで、美味しい。キャラフェに入ったテーブルワインもたっぷりで、素材の鮮度にこだわった食事を堪能した。
そろそろ食事が終わるころ、夕陽が水平線にゆっくりと落ち始めた。テーブルに座っていた観光客がほとんど立ち上がり、海岸にずらりと並ぶ。しばしエーゲ海の入り日の美しさに酔いしれ、感激のときを過ごした。 ほのかに残る明るさから、次第に闇が濃くなっていくミコノスの街を、ぶらぶら歩く。夫婦で、それぞれギリシャの衣装を購入。その夜、乗船後に、「ギリシャダンスの夕べ」が催されるので、それを着て参加しようと決めたのだ。９時半、アレグラ号に戻った。 |
