アウシュヴィッツ第２収容所であるビルケナウ収容所の「死の門」（旅日記20参照）をくぐると、鉄道の引き込み線は３本に分岐する。ここまで窓もない貨車にすし詰めで運ばれてきたユダヤ人たちは、ここで降ろされる。貴重品や身の回りものを後生大事に詰めてきたトランクをその場に置くようにいわれて、その先に進む。そこでより分けが行われる。健康で働けそうな男少数を除いて、大部分はその先へ向かって行進だ。服を脱ぎ、裸でシャワー室に入れられる。何百人も入った暗闇の部屋の天井から殺人ガスが注がれる。ここは大量殺人（ホロコースト）工場の、貨物到着ターミナルであった。ガス室と死体焼却炉は、ナチスの撤退時に証拠隠滅のために壊されて今はない。ナチス側の残した写真によると、この先にいくつか並んでいたらしい。わたしたちがアウシュヴィッツ見学に訪れたときには、ときならぬにわか雨。傘も持たずにずぶぬれになったが、この場所にふさわしいような気がした。