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17. クルーズの終り(下) 最 後 の 晩 は 仮 装 パ ー テ ィ ー
最終航海日。下船準備の説明のあと、午前中は、プールサイドデッキに座り、読書で過ごした。 昼食後、部屋いっぱいに荷物を広げ、次々にパッキングした。大した買い物をしていないのに、いつの間にか荷物が増え、辛うじて収まった。夫のスーツケースは、２５キログラムと、かなり重くなった。追加料金支払いを覚悟したが、帰りの飛行便にチェックインは無事にパスした。 ３時から、最後の工芸教室に参加して、仮面作りをした。ヴェネテｲアのカーニバルで有名な仮面の形をしたものが、材料だ。白いプラスチック製で、それに思い思いの色を塗って、仕上げた。夜、開催される仮装舞踏会の準備にもなり、私の作った仮面は、夫が使った。 ４時半、仮装のための衣装作りのデモンストレーションに参加。紙を折ったり、組み合わせたりして、衣装を作る方法を教えてもらう。大判のしわのある色紙のロールを貰って、部屋に戻る。あれこれ考えて、私はピノキオに、夫はジュゼッペ爺さんになることを決めた。早速衣装作りに取りかかり、夕食後にも作業を続け、なんとか完成した。高校の文化祭の準備を、思い出した。 ９時頃、ニコ（エンターテインメントチーム）に「ピノキオになるからね」と言って、顔にドーランを塗って貰う。 １０時４５分から、仮装の登録。意匠を凝らした仮装が集まってくる。思っていたより仮装に参加するグループが少なくて、日本人は２組だ。それでも、３０組前後はいただろう。日本人のもう１組は、歌舞伎の「暫」からヒントを得た、純日本風仮装だった。
１１時１５分、仮装パレード開始。控え室から１組ずつ呼び込まれ、名前と国が紹介される。会場のフラメンコ・サロンには、見物の人が、所狭しと溢れている。私たちの番になったので、「ピノキオとそれを操るジュゼッペ爺さん」のスタイルで入場した。思いかけず、ひときわ大きな歓声が起こった。会場を一回りしているあいだに、何人もの人が走り出てきて、フラッシュをたく。私のそれぞれの手にリボンを結び、それを棒につないである。後ろについた夫が、棒を操り、調子よく上下に動かす。それにあわせて、私はギクシャクと歩く。棒は、クローゼットの隅にあったプラスチックの切れ端を拝借。恰好をつけるために、小道具で苦労した甲斐があった。 会場にいた添乗員の木原さんが、「他の人より、いい線いってますよ」と、大袈裟に告げる。拍手がひときわ大きかったし、会場のざわめきに、自信をもった。それに、アレグラ号は、イタリア船だ。イタリアものを選んだのが、よかったのだろう。「考えられないアイデｲアだ」「創造的だ」と、数々の褒め言葉をいただいた。 その後、仮装している人たちが、輪になって踊った。踊っているうちに、洋服やズボンのあちらこちらがほころびはじめ、もう少しで、とんでもない状態になるところだった。何しろ私は、ブラとパンティーの上に、破れやすい紙の衣装をまとっていたのだ。それも隙間だらけの。夫が気にして、何度も紙の綻びとずれを直す。年齢を忘れて、少々羽目を外し、思い残すことのない、クルーズ最後の夜となった。 夜半１時近く、部屋に戻る。今日は、分刻みの忙しい１日となった。 ５月２７日（土）。６時、目覚まし時計で起こされる。すでに扉の下から、会計のシートが入っている。大急ぎで確認。 ７時に、朝食をレストランで食べる。アレグラ号最後の食事だ。 「昨夜のピノキオは、素晴らしかった」と、何人もの人から、声がかかった。木原さんから、エンターテインメント・チームのメンバーが、「日本人がこんなにするとは思わなかった。仮装を盛り上げてくれて、感謝しています」 と言っているとの伝言がある。これまでの日本人グループは、大人しい引っ込み勝ちの印象を与えていたようだ。自分たちが楽しんで、他人を楽しませることが出来たのだから、クルーズのよい思い出となった。 ８時半、時間より早かったが、集合場所のフラミンゴサロンに行こうとすると、ちょうど、接岸の最中だった。ジェノバの街が間近に迫っている。デッキから、ジェノバの町や作業の様子を眺める。やがて接岸。ベルトコンベアーに乗った荷物が、どんどん運び出されている。 ９時過ぎに、グループごとに集まり、パスポートが渡され、下船した。すでに降ろされていたスーツケースを確認すると、ポーターが、ミラノへ向かうバスまで運び、積み込んでくれた。 こうして、クルーズの旅は終わった。旅の初めから終わりまで、添乗員の気配りは細やかで、こんなに楽な旅をしたのは、初めてだ。旅行社の宣伝文句は「ゆったりと、のんびりと、船の旅」だったが、こと私たち夫婦の場合は、必ずしもそうではなかったなと、船上の日々を思った。これも、ひとつの経験だ。 この日は、ミラノで１泊し、帰国の途についた。お疲れさまでした。 |
