03/4/3

　サイゴン第１夜は、コンチネンタルホテルに泊まった。フランスが、インドシナを植民地にしていた時代に造られた、コロニアルスタイルの代表的なホテルである。のちに泊まる予定にしているマジェスティック・ホテルと並んで、サイゴンの老舗のホテルとして知られている。1950年代に、グレアム・グリーン（映画「第三の男」、「落ちた偶像」などの原作者として有名なイギリスの作家）が、ひんぱんにサイゴンを訪れた際、定宿にしたとか、開高健もマジェクティックとともに愛したとか、映画「インドシナ」撮影時にカトリーヌ・ドヌーブが泊まったとか、何かと伝説めいた宿である。グレアム・グリーンは、この宿に泊まり、「静かなアメリカ人」を書いた。フランスが去ったあと、入れ替わるようにアメリカが、静かな、しかし汚い支配者として潜入してくる。そんな時代を書いた小説として、読んだ記憶がある。そんな由緒ある古いホテルが、南北統一後の試練の時を経て、在りし日の姿を残したまま改装され、今やサイゴン観光の人気ホテルとして使われている。

　部屋は古い時代の面影を残し、落ち着いた雰囲気である。中庭はオープン・テラス・レストランにつながり、なるほど、こういうのがコロニアルスタイルか、とうなずかせる。しかし、一歩外に出ると、ホテル前の広場は、前回書いたように「プッ、プッ」とけたたましいクラクションと爆音を鳴らしてバイクが、渦を巻いて走り回っている。とても「静かなアメリカ人」どころではない。ホテルの内と外。その格差は歴然としている。