03/5/24

　サイゴン（ホーチミン市）の中華街チョ・ロン。ビンタイ市場裏のぬかるみ道を古びたシクロを牽いて、年老いたシクロドライバーがとぼとぼと歩いていく。サイゴンのシクロドライバーは、一時期は、南政府の兵隊出身者が多かったという。北に統合されたときに、南の政府関係者はもとより、軍関係者も冷遇された。職に就けず、食うにもことかき、シクロドライバーとして日銭を稼ぐしかなかったという。いまは、若い、駆け引き上手のシクロドライバーにとって代わられている。この年寄りドライバーは、おそらくそんな時代を生き抜いてきたのではないか。年季の入ったシクロと、疲れ切ったような表情・足取りから、そんなことを想像してしまった。乗らないかと声をかけることもせず、暑い日射しの中を、ゆっくり歩いていった。