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05/10/21 ア イ ル ラ ン ド 旅 日 記 ０ 出 発 前
９月７日（水） ＤＶＤで、ジョン・フォード監督の名作 『静かなる男』を観る。半世紀前のアイルランドが舞台。昔むかし、アメリカ映画として観た記憶がある。登場する人間は、アイルランドを体現していると、解説にはあった。そんな視点で鑑賞すると、人間心理や風習が、まったく新鮮に思えるのだから、面白い。アイルランドへの誘いには、ぴったり。 ５月に、夫が属する写真グループ展があった。８月には、裂織の公募展があった。さらに９月には裂織協会の長野研修旅行。夫婦揃って、それらの準備や後始末で忙しかった。おまけに４月から１年間、町内会の役員の当番が巡ってきた。当分は、長期に亘って水戸の住まいを離れることは、難しい。そんなこともあって、３月にポルトガルへの旅をし、これでしばらくは外国への旅はお預けにしようと決めた。 ところがである。そんなことを覚悟すると、忙しい日々を過ごすうちに、却って気持ちが煮詰まってくる。楽しみを封じられた思いがイライラを募らせ、いつになく心身の疲れを感ずるのだ。おかしい。そんななかで、「一段落したら、来年の春には旅ができるね。今度はどこに行こうか？」と希望を語り、当面の気晴らしをしていた。 「写真のテーマとしては、インドが面白そうだよ。ガンジスの畔。ベナレスにぜひ行きたい」と、夫は切望する。「アジアのエネルギーは、若い年齢じゃないと、無理よ！ もろもろの条件は、もう体力の限界を超えるんですもの・・・」と、尻込みする私。こうしたやり取りが、束の間の気分転換になっていたのだ。 やがて、「やっぱりインドは駄目だろうねえ・・・？」と、夫が言いだした。偶々友人とおしゃべりが弾んだ折り、インド旅行が話題になった。友人は学生時代に訪れた体験から、断固と言ったのだ。「仁さんにはインドは大丈夫かも知れないけれど、みやさんにはもう無理よ」と。それでも夫は、インドに思いを馳せ、恋い焦がれる気持ちを、折に触れて呟いた。 「どこかに旅をする」という希望だけは忘れず、忙しい日々を過ごしていたある日、夫が「アイルランドへ行こう。個人旅行だよ。レンタカーして気に入った土地に泊まる。宿は決めないで、自由な旅をしよう」と、宣言したのだ。「それはいいわ。アジアの旅のきつさはないでしょうし・・・。それに、ア（イ）ルラ（ンド）の中にインドも含まれるでしょう？・・・」と、言葉のダジャレを言いながら、大賛成の私。 「決まり。じゃ、この秋にしよう」。我が家は、なにごとも夫唱婦随で決まる（と、思う？）。 「来年の春を待ってなどと言っていると、なにが起こるか。この年齢になると予測できないからね。それに、レンタカーができる年齢制限があるし・・・」。アイルランドの旅を言い出す前に、夫は下調べをしていたのだ。資料によって異なるが、レンタカーができるのは70歳まで、あるいは、75歳までだという。70歳の夫は、来年春は71歳。時間的には、「いずれお役目から解放されてから・・・」と、悠長に構えていては、チャンスを失うことにもなりかねない。自治会の役目は、留守の間、ご近所の方に代行していただくことで了解を取った。 以上のような事情で、９月25日に成田に前泊し、26日から10月15日まで、アイルランドへ旅をすることになった。レンタカーは週単位で借りると安い。２週間が適当だ。それに前後のダブリンでの滞在を１泊と、３泊とする、全部で20日間の旅となった。 それからの夫の行動は早い。往復の航空券を買った。２週間のレンタカーの予約をした。アイルランドへ到着する夜と、最後に過ごすダブリンのホテルの予約も済ませた。成田で前泊するホテルに車を預けるが、その予約をした。東京自宅近くにあるアイルランド観光庁東京事務所に出かけ、各種資料をもらってきた（特にB&Bやホテル＆ゲストハウスなどのガイド本が無料でもらえ、これがとても役に立った。現地の観光案内所などでは有料で売っていた）。その他、車の国際免許証取得、旅で訪れる場所や走るルートの下調べなど、旅の計画のすべては、夫がしている。日本語の旅行ガイド本は、主要な都市や観光地しか扱っていない。英語のガイド本を取り寄せて、詳しく調べ、ノートにメモしている。 「ほんとにたいへんだよ。あんたさんは、お任せで気楽でいいよ」と、ぼやきながらも、まんざらではなさそうな夫。大船に乗って旅を期待している私。たった１人の客が、専属の営業マンとガイドとドライバーを抱えた気分だ。だが、このガイドは面倒見はすこぶるいいのだが、気難しい？ それに凝り性だから、訪れる土地のはじめのほうの下調べで、かなりの時間を費やしているようだ。こんな状態だと、旅の全行程のプランが完成するのだろうか。どんな行程・日程になるのかは、ご本人にもわからないらしい。 夫が話す計画によると、先ずアイルランドのダブリンへ到着して１泊。そこからゴールウエイまでは汽車で行く。そこで２週間のレンタカーをして、スライゴーまで北上し、そこからアイルランド島の西側の海岸に沿ってコークまで南下する。ドライブをしながら、途中、気に入った土地に泊まる。コークで車を返して飛行機でダブリンへ飛び、最後はダブリンの観光をする。ツアーとは違って、気ままな旅だ。 ９月12日 ここ半月、アイルランド関係の読書をしている。関心を持つと、今まで目に入らなかった種類の本が、結構あるものだ。訪れる土地の歴史や多少の文化的背景は調べようと、限られた時間のなかで試験に備える学生の気分。アイルランドの歴史には、ケルト文化が絡む。ヨーロッパ文明の広がりに関わるケルト人は、アイルランドに大きな足跡を残していることを、再認識している。今日、北アイルランドのベルファストで、テロがあったというニュースあり。今回の旅は、英国領の北アイルランドへは行かないのだから、直接は関係ないが・・・。 夫は、「いちいち心配していたら、旅行しない方がましだよ。なんにもしなくても、身近に、交通事故に遭うことだってある世の中・・・。あれこれ気にしていたら、髪の毛がはげるほうが心配だよ・・・」。ごもっとも。 ９月13日 夫が呟く。「今年の海外旅行は、日本からみると、地球のはずれを選んでいるね。ポルトガルとアイルランド。身近なアジアの旅行は、もう無理かな？」 まだ、インドが諦められないらしい。夫は、ＰＣ上に、アイルランドの首都ダブリンの天気予報が表示されるようにしている。太陽の上にシャワーがある日が、多い。アイルランドでは、「キツネの嫁入り」状態の雨が、毎日降るそうな。１年のうち200日は雨が降ると知った。今日の気温の予報は、最低７度ｃ、最高が１２度ｃ。北海道より緯度が高く、すでに秋深しの感じだ。成田出発の時点では、日本はまだ夏の季節。身体がびっくりしそうだし、服装の準備がピンとこない。 夫が、全行程の具体的なプランを、ついに完成した。凝り屋だから、旅行会社の行程表より、詳しい。「どこかを適当にスキップしなければ、これ全部はとうてい無理だとは思っているんだけれど・・・。それと、どの辺りで日曜日を過ごすかが、問題だね。小さな村だと、日曜日にはレストランはお休みで、夕食ができない。適当な大きさの町に辿り着いた方がいい」という。 いつもながら、夫は英語の「ロンリー・プラネット」（オーストラリアの出版社が出している世界でいちばん売れている旅行ガイド）を中心に調べているが、夫好みで、おおいに参考になるらしい。私は司馬遼太郎「愛蘭土紀行 I、II 」と、「アイルランドへ行きたい」を読んだが、今回はほとんどお任せだ。 リスト・アップした持参品を、スーツケースに入れ始める。日本より寒い現地の天候に合わせて、どんな衣服にするかが問題だし、３週間の旅行でもある。まずは揃えてみて、その中からどれを除くかを悩む。どうやら、20キログラム以下には収まりそう・・・。 ９月24日 夫がやっとパッキングを始めた。ところが、デジ・カメ用電池の充電器が見あたらないと騒いでいる。さんざん探したあげく、「充電器はふたつあるのだけれど、水戸にひとつあるからと、この間、わざわざ東京用に置いてきたんだよ。引き出しに入れたのも覚えている。ひょっとしたら、両方とも東京にあるのかもしれない」と言う。今となっては、近所の電器店に走っても、取り寄せになるだろうから間に合わない。「余裕を持って、早めに準備することが大事なのよねえ・・・」と、私。どうしようと悩んだあげく、水戸から成田へ車で行く予定を変更し、遠回りになるけれども、東京宅に寄って、そこから成田へ行くことにする。やれやれ。 数日来の慌ただしさから、やっと落ち着きを取り戻したので、「地球の歩き方」などのガイドブックに目を通した１日だった。こちらは余裕だよ・・・。 ９月25日 台風の進路を気にしながら、朝を迎える。早い時間に東京へ車で向かう。日曜日だし、台風の接近を避けたのか、常磐高速道はガラガラ。２時間足らずで着いてしまった。やっぱり、充電器はふたつとも東京の自宅にあった。ひとつを携行品に入れる。一件落着でホッとした。 東京で一休みするひまもなく、成田へ向かう。京葉道・東関東自動車道ともスイスイと車は走ったので、午後早々と日航ホテルにチェック・イン。ここで車を３週間預かってもらう。「14日まで無料。それ以上は一日1500円の有料」が建て前だが、３週間でも無料にしてくれるという。 部屋でゆっくりと休息したあと、夕方、空港第１ターミナルへ出かけ、ユーロを求める。外国旅行にはカード支払いを原則としているのだが、今回の旅で宿泊に利用する予定の”Ｂ＆Ｂ（ベッド・アンド・ブレックファスト、日本の民宿のようなもの）”は、原則としてカードはダメらしい。それに、ドライブで廻る地方には、換金できない場所もあるらしい。だから、いつもよりは少し多めに用意する必要がある。 空港内には両替を扱う銀行が何軒かあるが、外貨の売買のレートには違いがあって、それを比較するのも楽しい。為替を通して、日本経済の動きがわかるし、銀行の企業努力も推量できるのだ。今までの経験では、三井住友銀行がいい。昨日の為替では、購入の基準価格は１ユーロにつき、三井住友銀行139.45円、千葉興業銀行142.56円、りそな銀行142.58円、東京三菱142.58円、千葉銀行142.69円だった。全部を調べて回ってから、当然三井住友銀行で購入する。千ユーロ買って、３千円ほどの差になる。 前泊するときの慣例通り、空港で夕食をして、ホテルに戻る。いつも和食店に入り、夫は日本酒を飲む。今日は、出発前日だというのに、充電器騒動で、わざわざ東京経由で成田に来た変な１日だった。「遠回りしたけれど、運転は楽だったよ」と夫は言うが、私はすっかり草臥れてしまった。旅の前途は、多事多難・・・？ |
