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03/9/7 皿 洗 い に 取 り 組 む 皿洗いに凝っている。退職後の私の仕事は、皿洗いである。いうなれば、職業は、皿洗い夫。毎日皿洗いの技を磨き、一流の皿洗い夫を目指している。打ちこみようをいえば、皿洗いに命を賭けて臨んでいる（いくらなんでも大げさか）。それはともかく、以下は私の皿洗い修業の中間報告である。中間というのは、まだまだ修業中、さらに技に磨きをかけたい、という意味である。 退職後、ワイフは対等の家事分担を要求した。いままでは仕事に出ていたのだから、大いばりで「めし！風呂！」の境遇にいたが、これからはそうはいかない。退職後感じる最初の悲哀である。家事となると、料理、洗濯、掃除、買い物、家のメインテナンス、庭掃除などなどとなろうか。掃除は大の苦手であるが、自分の領域を自分でやり、共通部分はワイフがやるということで、有利に妥結にこぎつけた。これで分担分の自分の城を、好きなように散らかし放題にできる。まあ、掃除機をかけるのは年に数回程度ですむ。単身赴任が長かったから、洗濯はできぬわけではない。しかしワイフは、「アライグマ」との異名をとるほど、無類の洗濯好きである。人の着ているものまで引っぱがして、洗濯機に放り込みたがる。干すのも気持ちがいいらしく、鼻歌交じりである。おのずと、これはあちらの専業となる。 問題は食事である。料理も五分五分で分担し合おうよ、との打診があったが、しょせん無理、と承知しての提案に過ぎない。「そのうちにやる、という方向で前向きに検討します」 という官僚的答弁で逃げ切った。しかし、一緒に四六時中生活してみると、食事の準備はなかなか大変な様子である。ワイフの側からすれば、退職以前は朝と夕食の準備ですんだ。昼は残り物などで、なんとか簡単に済ませていたようだ。また夕食もつき合いや仕事、出張などで抜けることも結構あった。それが、いまでは私が家にいて、３度のめしを用意しなければならない。ワイフは、趣味の織りなどに打ち込むと、食を忘れる方であるが、私は３度の食事を決まった時間にちゃんと食べることを、譲れない生活のルールにしている。ワイフの負担はなかなか大変なようだ。 退職後ののんびりした生活では、一つの食事が終わって、ぼやーっと新聞を読んだり、雑用を片づけたりしていたら、もう次の食事の準備をはじめる時間になっていた、なんてことがよくある。老後の生活では、極言すれば、食事が生活のメイン・イベントとなる。ワイフは、食事の準備に、相当な時間とエネルギーをさかなければならないようだ。その大変さを見るに見かねて、私が食事の後かたづけを担当する、ということになったのは、まあ当然の成り行きだった。いや、話が長いな。まだ本題に入らないうちに、こんなに長口舌では、先が思いやられる。 さて皿洗いである。これは、つまらない仕事である。仕方なくやらざるをえない下積みの仕事である。若者に人気のない３Ｋの一つ、汚い仕事である。まあ、最初は、洗い場に積まれた皿の山を、嫌な顔をしながら、こなしていた。しかし次第に、気持ちが変わってきた。これは面白いぞ、これをチャレンジと思って、取り組んでみようじゃあないか、という方向へと。 在職時代、私は、労力だけの嫌々ながらの仕事を、気持ち次第で、楽しい仕事にできることを経験してきた。あらゆる仕事には、程度の差こそあれ、単なる労力だけという部分がある。頭を使い、精魂を込め取り組む部分もあるが、ただ労力だけを注いで、長時間かけてやっと仕上げる分が過半を占めるような仕事も結構ある。その部分を嫌だなあ、と仕方なく片づけるより、何か楽しい仕事にできないか、工夫してみるのである。labor（労働）を、play（遊び）にしてしまうのである。 一例を思いだしてみる。打ち合わせの資料を作る。中身を準備するのは頭脳労働だが、そのあと何部かの配布資料を作るのは労力だけの仕事である。コピーして、頁をそろえて、ホッチキス留めする。そんな単純作業でも、それをどうすれば要領よく進められるか考えるのである。ホッチキス留めだって、どこをどんなふうに閉じればいいか、曲がらないようにするにはどうするか、などを考えながら、きれいな仕上がりを目指すのである。そうすると嫌な労働が、楽しいチャレンジングな仕事になる。もし大量にやるとしたら、何人かで手分けして流れ作業にする。グループで効率を競い合う。かけ声をかけあいながら手渡しする。鼻歌など口ずさみながらやる、などすると深夜の労働だって、楽しくなる。 同じ要領で、皿洗いを楽しむにはどうするか。そういう観点で考えてみると、皿洗いは、取り組みがいのある仕事である。皿洗いの専門家などいない（いや、その世界にはいるのかもしれないが、あまり聞いたことがない）。それじゃあ、皿洗いという仕事を究めてみようじゃあないか。主婦は、たくさんの家事の中の仕方ない一部として、毎日こなしているのだから、それなりのノーハウを持っているかもしれない。しかし皿洗いは付けたりである。それ自体としてどれだけ、自覚的に、探求的に取り組んでいるだろうか。ここは一つ皿洗い専業主夫としてその道を極めてみよう。 かくして、私の皿洗い修業が始まったのである。さて、それからの次第は、次回として、長くなるので、ひとまずここでキーボードうちを中断しよう。いや、書いているうちにボルテージが上がり過ぎた。ひとまず頭を冷やそう。 |