怒らない

02/５/15

怒らない、怒れ　な　い

　瀋陽大使館への駆け込み事件で、みんな怒っている。私は、テレビに映し出されたあの領事館員の態度も、その後の大使館や外務省の対応ぶりも、日本人って、どうせこんなものだろうと、怒る気すらしない。まったく情けない、でも本当に情けないのは、自分ら日本人一人一人なのではないか。

　北朝鮮の人たちは、生きるか死ぬかぎりぎりのところで、決死の覚悟で駆け込んできている。そんな限界状況にわれわれの日常は縁がない。人権が抑圧され、民族間の争いで血が流され、飢えた人が放置されている。でも、それは遠い国のこと。日本は一応大丈夫。他国のやっかいな問題には巻きこまれたくない。どうぞお引き取りください。ハイご苦労さん（と帽子を拾ってあげる）。

　それでいいんじゃないの。この国は、それでやってきたんじゃないの。手ひどい戦争体験をしたあと、平和に徹することにした。たまたま享受できた戦争のない状態のおかげで、経済発展に専念できた。それもたまたま成功して、豊かな生活を謳歌してきた。政治や外交は、偉い人に任せて、よろしくお願いします。私らは、とりあえず平穏な生活が送れれば、それでいいですから。それが、この数十年の日本人だったのではないか。

　何かあると、マスコミは、激高して問題だ、問題だと指弾する。みんなもそれに乗せられて、問題だと怒る。でも、その指弾は、自分に跳ね返ってくる。マスコミが長年飼い慣らした日本人が、こんな情けない外交や、政治を作ってしまったのである。問題だ、というなら、まず自分らが何をしてきたかを考えてみた方がいい。

　問題だというなら、その問題の根源を徹底的に突き止めて、その解決に、ねちっこく取り組んだらいい。でも、問題の追求は浅く、その対策となると行き当たりばったりの弥縫策。それすらすぐに忘れてしまう。そんな日本人を長年やってくると、今回もまたか、と、先行きまで見えてしまって、問題だ問題だと騒ぐ人の口車に乗る気すらしない。

　小泉さんに対する支持にだって、日本人の気質と政治意識のいい加減さが現れている。かっこうよく登場したライオン首相を熱狂的に歓迎したくせに、ちょっとあれこれあると、もうこの人は駄目だと飽きてしまう。あの圧倒的な支持率も胡散臭かったが、急に見放して離れてしまった人たちの浮気っぽいこと。支持するというなら、小泉さんの政策と資質をとくと見て支持してほしいものだ。最初からこんな人だったと思う、小泉さんは。改革する、と約束したこの人にみんな賭けたのだから、もうしばらくやってもらったらいいのに。首をどんどんすげ替えて、変えればよくなると思ってやってきた、そんな政治がまた続くのだろうか。多分そうだろう。それが自分ら日本人に応分なのだろう。

　マスコミで腹が立つといったら、むしろスポーツ報道だ。イチローとか新庄とかのマスコミ報道には、あきれるね。彼らの活躍はそれはそれで素晴らしいが、彼らの成績だけをあんなに仰々しく報道することはないんじゃないか。テレビでは、時には、冒頭の重要ニュースになったりする。それぞれに数十人の日本人報道陣がつきまとっているんだそうだ。彼らの関心は一人の日本人選手だけ。顰蹙かっているんだそうだ。それこそ国辱ものだよ。これも、われわれ日本人の後進性と国際感覚のなさの現れ。それを反映した馬鹿なマスコミの行動は自分らの恥。あんなイチロー報道にうつつを抜かしていることと、瀋陽でおこったこととは、日本人のあり方の点で、根底では通じていると思う。

　隠居の身で、歳取ってきたせいか、近頃は、何事が起きても、あまり怒る気がしなくなってきた。すべて、日本人のあり様を如実に反映していて、そんなに怒れるのかな、と思ってしまう。鈴木宗男周辺で起きた不祥事。その張本人をかばう自民党、あいかわらず派閥次元で、ものが動いて、それでいいとする。われわれ国民は、自民党の議員さんに、よほど甘く見られている。でも、しょせん、彼らとて、われわれにふさわしい政治家なのだろう。